(IPO経理実務のポイント)連結に含める会社の範囲は、持株比率だけで判断しません
こんにちは、ひめのです。
以前のブログで連結会計についていくつか解説しました。
これらについては、実際の処理方法がメインの内容でしたが、そもそも「連結する会社の範囲はどのようにして決めるのか?」「子会社全てが連結対象なのか?」といったところが実務上も論点となります。
そこで今回は、連結の範囲について解説したいと思います。
連結に含める会社の範囲はどう判断すれば良い?
連結の範囲に関しては、下記の会計基準や実務指針等に詳しく記載されています。
■企業会計基準第 22 号 連結財務諸表に関する会計基準
■企業会計基準適用指針第 22 号 連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する適用指針
■監査・保証実務委員会実務指針第 52 号 連結の範囲及び持分法の適用範囲に関する重要性の原則の適用等に係る監査上の取扱い
子会社にあたるかどうか
連結の範囲を検討するにあたりまず重要なことは、対象となる会社が子会社にあたるかどうかの判断です。
会計基準では「対象となる会社の意思決定機関を支配している場合」に子会社に該当することとなりますので、「支配している」かどうかを判断することになります。
以下の場合には、支配しているということになります。
ただし、財務上又は営業上もしくは事業上の関係からみて他の企業の意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められない場合は該当しません。
①議決権を過半数所有している
②議決権を40%以上50%以下所有している
緊密な者(※)と合わせて過半数を有している等の一定の条件に当てはまる場合
③議決権が40%未満
緊密な者と合わせて過半数を有しており、かつ役員関係や契約、資金調達関係などにより意思決定期間を支配していることが明らかな場合
※緊密な者とは
自己と出資、人事、資金、技術、取引等において緊密な関係があることにより自己の意思と同一の内容の議決権を行使すると認められる者
これらは実質的に判断しますので、形式的に整っていなくても実質的に支配している状況があれば子会社に該当することとなります。
なお、更生会社、破産会社その他これらに準ずる企業であって、かつ、有効な支配従属関係が存在しないと認められる企業については子会社に該当しません。
子会社を連結に含めるかどうか
上記の子会社に該当するかどうかの判定で子会社に該当した場合、連結に含めるべき子会社かどうかの判断が必要となります。
こちらについては、原則と例外があり、例外についても2パターンありますので注意が必要です。
原則
・・・すべての子会社を連結範囲に含めます。
例外(含めてはならない)
・・・以下の場合に該当する子会社については連結の範囲に含めません
①支配が一時的であると認められる企業
当連結会計年度で支配に該当しているが、直前連結会計年度で支配に該当しておらず、かつ、翌連結会計年度以降で相当期間にわたって支配に該当しないことが確実に予定されている場合のことを言います
②①以外の企業で、連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業
規定はされているものの、一般には限定的であるとされています。
例外(含めなくても良い)
・・・重要性が乏しい小規模な子会社
重要性の判断基準
連結に含めるか否かの重要性の判断をするにあたっては、企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況を適正に表示する観点から、量的重要性と質的重要性の双方から判断します。
◯量的重要性の判断基準
連結の範囲から除外しても企業集団の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性が乏しい子会社かどうかについては、企業集団における個々の子会社の特性に加えて、少なくとも下記の4項目において与える影響によって判断します。
具体的には、各項目の連結財務諸表提出会社と連結子会社の合計に対する非連結子会社の各項目の金額の割合を算出し、判断します。
■資産基準
■売上高基準
■利益基準
■利益剰余金基準
◯質的重要性の判断基準
量的重要性が乏しい場合でも、少なくとも次のような場合には連結の範囲から除外することはできません。
① 連結財務諸表提出会社の中・長期の経営戦略上の重要な子会社
② 連結財務諸表提出会社の一業務部門、例えば、製造、販売、流通、財務等の業務の全部又は重要な一部を実質的に担っていると考えられる子会社
③ セグメント情報の開示に重要な影響を与える子会社
④ 多額な含み損失や発生の可能性の高い重要な偶発事象を有している子会社
あとがき
このように、いくら簿記の知識として連結会計の会計処理がわかっていても、その前段階で連結の範囲に含めるべきか否かという点で躓いてしまうと、全く違う結果の連結財務諸表となってしまいます。
特に連結の範囲に関する検討は、一定の判断基準が示されてはいるものの、最終的には会計基準の趣旨に沿って実質的に判断しなければならない難しい論点でもあり、難しさゆえに過去に大きな会計不正の要因にもなっています。
したがって、連結の範囲に関する知識は実務家にとっては避けては通れないものであるといえます。