コロナ禍で浮き彫りになった中小企業の「会計実務事情」とは??

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こんにちは、ひめのです。
昨今のコロナ禍では、さまざまな給付金や融資を受けるために会計数値を提示する機会が増え、今まで以上に会計に触れた方も多いのではないでしょうか。

実はこの状況により、浮き彫りになった中小企業の「会計実務の事情」があります。
今回はそのことについて書きたいと思います。

コロナ禍で浮き彫りになった中小企業の「会計実務事情」とは??

昨今のコロナ禍における給付金の申請や特例融資を受けるにあたっては「前年同月比で売上高が〇%減少していること」が要件となっていることがほとんどです。

この要件で浮き彫りになったことがあります。

それは「中小企業では月次で発生主義会計を採用できていない」ケースがあるということです。

前年同月比で売上高の減少を確かめるためには「会計帳簿」から情報を取得します。

中小企業では一般的に会計監査を受けていませんので、「税務申告した申告書の添付資料である決算書及びその会計帳簿」が一番信頼できる情報となります。

したがって、その会計帳簿上の売上高を比較することになりますが、実は中小企業や小規模事業者においては会計実務に割けるリソースが少ないことから、実務の煩雑性等を理由に「月次では発生主義会計で処理しないで現金主義で処理している」ケースがあります。

期中の処理は厳密に処理していなくても、決算書上1事業年度の売上高が網羅されているのであれば正確な納税額の計算は可能であるため、「あえて月次の会計実務に時間をかけない」と割り切ったスタンスをとっている中小企業は少なくありません。

つまり、期中現金主義で計上し決算期末だけ発生主義としているということです。

現金主義で計上していると、当然前年同月の売上高の比較を正確に行えないため、売上高の比較を証明するためには追加的な資料の確認を複合的に行わざるを得なくなります。

しかし、この「月次で発生主義としていなかった」ことにより給付金や融資の申請に時間がかかってしまったという問題よりも「当たり前のように中小企業でも月次で発生主義を厳密に採用しているだろう」と認識している行政含めた外部機関と中小企業の実情との間でギャップがあるのではないかということが浮き彫りになったのが問題ではないかと思っています。

したがって、中小企業の実情に合わせた会計制度や実務指針を今後は今まで以上にもっと踏み込んで考えるべきではないかと感じています。

月次での発生主義会計のメリットとデメリット

発生主義とは、簡単に説明すると、

「お金の動きとは関係なく、その取引が発生したタイミングで会計処理すること」

を言います。

ちなみに厳密には売上高は「実現主義」が原則となっていますが、今回は説明しやすくするために総称して「発生主義」とします。

なお、最近において収益認識に関する会計基準が公表されていますが、この点については長くなるので別の機会に書きたいと思います。

中小企業において月次で発生主義を採用することによるメリットとデメリットには次のような点があります。

《メリット》
・正確な月次の損益が把握できる
・未収未払の確認が後追いでできる
・ある程度の納税額の予測ができる

《デメリット》
・会計実務が煩雑になる
・正確な処理には会計の知識が必要
・資金の動きは別途管理が必要(損益では把握できない)

中小企業で特にメリットとなるのは納税額の予測ぐらいで、その他の項目については他の管理で代用することも可能であったり、そもそも情報としてそこまで有用でなかったりするケースもあることから、メリットのためにというよりは中小企業はリソースが少ないため「デメリット部分にいかに対応するか」という意識になりがちです。

発生主義会計が煩雑と感じる2つの理由

発生主義会計が煩雑と感じる理由は2つあります。

①取引発生時と取引決済時に2回仕訳処理が必要である
②未収未払残高の確認ができるよう帳簿を整理する必要がある

①については、取引計上時(売上計上時など)と取引決済時(売上代金入金時)の2回仕訳処理が必要で、一般的にはそれぞれの仕訳処理は違うタイミングのことが多いです(末締め翌末入金など)。

最近の自動化が進んだ会計システムでも、発生主義とするためには取引発生時の入力と決済処理という2つの作業が必要です。

②については、総勘定元帳や補助元帳で残高を確認しますが、日付順に貸借が入り乱れて記載されていますので、例えば売掛金の場合「どの取引が入金されどの取引が入金されていないか」パッと見ただけでは分からないため、なるべく残高のチェックをしやすくするために補助科目や備考の記載を工夫することが必要で、会計の知識や会計実務に長けている人でなければ整備ができない管理となります。

したがって、リソースが少ない中小企業においてはこの煩雑さが受け入れていられないという事情から、税務申告上影響がない範囲で月次で無理して発生主義会計を採用しない、という結論に至るわけです。

中小企業の実情に合わせた会計実務とは?

月次の損益情報があったとしても、季節変動があったり長期的な視点が必要であったりする状況下では、月次の損益の浮き沈みがかえって近視眼的な経営に陥ってしまう原因にもなりかねません。

しかも、正確な月次損益や納税額の試算を行うためには、あとから修正がないよう短期間で網羅的に処理して会計を月次で締められるような経理体制を整えなければなりません。

中小企業のリソースを考えればそのような体制を整えるのは難しいことが多く、納税額の予測は顧問税理士等の協力のもと概算情報を得るなどしてカバーし、会計実務にあまり時間をかけずに経営判断に必要な会計情報を得る形が理想です。

会計理論的には発生主義会計は当たり前ですが、中小企業の諸事情や月次損益の管理を徹底しないことへの影響度とリスクを考慮した上で、ある程度現金主義が許容される、中小企業経営にとって最良の会計実務を考える必要があります。

杓子定規に、会計処理はこうあるべきだと押し付けるのではなく、実務を考慮した上で制度上の最低限をクリアしながら、効率的で有効な方法を見出すことが重要ではないでしょうか。