(IPO経理実務のポイント)注記にも必要なタックスプルーフを実務で活かしていますか??
こんにちは、ひめのです。
今回は、IPO〜上場企業の経理実務として、税効果会計に関する実務上のポイントである、タックスプルーフについて解説したいと思います。
注記事項となっているので作成しなければならない情報ですが、実務において最終段階での分析にも使います。
なお、税効果会計については以前のブログで解説しているのでそちらも参考にしていただければと思います。
タックスプルーフとは??
タックスプルーフとは「税効果会計適用後の法人税等の負担率」と「法定実効税率」との間の差異について、当該差異の原因となった要因の内訳を明らかにすることです。
税効果会計適用後の法人税等の負担率とは
税効果会計適用後の法人税等の負担率(以下法人税等の負担率)とは、「税効果を適用した後の法人税等」を税引前利益で除した数値です。
その事業年度にかかる実際の税額ではなく、税効果を加味して会計上の税金費用を調整計上した後の税負担率を算出したものとなります。
法定実効税率とは
税務申告において課税される法人税、住民税、事業税の表面税率を使って一定の方法により計算された総合的な税率です。
なぜ一定の方法により計算されるかというと、税率をそのまま足すと税率を乗じる対象が「所得」であったり「税額」であったりするため、一つの税率で法定の負担税額を算出するためには「一定の方法で」一つの税率を算出しなければならないからです。
なぜ上記の差異が発生するのか
「法人税等の負担率」が「法定実効税率」とイコールにならない要因は、実際には所得と関係なく発生する税額があることや、一時差異ではなく永久差異として税務上永久に否認等されるものがあることが要因です。
永久差異の例としては、交際費の損金不算入や受取配当金の益金不算入があります。
また連結財務諸表を作成している場合には、連結特有の仕訳が損益に影響していることにより、その分差異が出てしまうこととなります。
具体的な注記例を公表されている有価証券報告書から見ることができますので一例をご紹介します。
こちらは「株式会社ビックカメラ」の注記です。
この事例では、法定実効税率30.62%に対して、法人税等の負担率が26.81%(2020年8月期)となっています。
差異要因は、住民税の均等割、交際費の損金不算入、のれん償却、評価性引当額となっていますが、こちらの要因に関しては後ほど解説します。
要するに、会計上計上されている税金費用の負担率が26.81%となっているのは、上記の要因(プラスの要素とマイナスの要素)があるために、法定実効税率から差出ていることになります。
このように実際の注記を見るとイメージつきやすいと思いますので、公表されている有価証券報告書の事例を見てみると良いと思います。
タックスプルーフの実務ポイント
このタックスプルーフは、税効果の注記に必要となりますが、税効果会計を適用するにあたり会計処理が誤っていないかの包括的な分析チェックにもなります。
タックスプルーフに限らず、差異分析を行うことは最終段階において有効なチェック方法ですので、色々なシーンで差異分析を行うことをお勧めします。
タックスプルーフを行う上での実務上のポイントとして把握すべき差異原因の例をいくつか解説します。
税率と関係のない税の把握
・・・住民税の均等割など
住民税の均等割は、課税所得とは関係なく計上されますので、その分法定実効税率よりも法人税等の負担率の方が大きくなってしまい、これが差異原因となってきます。
永久差異の把握
・・・交際費の損金不算入や受取配当金の益金不算入など
これらは、税務上損金不算入として課税所得の加算・減算項目となりますが、将来認容されるものでもないため、税効果の対象から除外されています。したがって、その分の税金費用が調整されていないことから差異の原因となってきます。
評価性引当額の把握握
評価性引当額とは、税効果の適用にあたって、繰延税金資産の回収可能性がないと判断している部分のことを指します。したがって、これらは税効果の計算対象から除外されていますので、差異原因となってきます。
連結特有の要因把握
・・・のれんの償却や持分法投資損益など
のれんの償却は原則として税効果を計上しませんので、この費用に見合う税金費用のマイナス分が法人税等に含まれていません。また、持分法投資損益についても当該損益に対応する税金費用が計上されていません。したがって、その分法人税等の負担率が増減するため差異原因となってきます。
以上がタックスプルーフを行う上で把握すべき差異要因のポイントとなります。
実務上は、連結ベースと単体ベースでそれぞれ分析することになると思いますが、税務上の取り扱いもしっかりと理解していないとこの差異分析はできません。
言い換えると、会計上の税金費用と税務上確定した税額が同額でない要因を明確に説明できるようにしておかなければならないということになりますが、IPO・上場企業ならではの経理実務だと思います。