(経理実務のポイント)自社制作ソフトウェアはどうやって資産計上する??

こんにちは、ひめのです。
今回は、ソフトウェアの会計処理について「自社制作のソフトウェアはどうやって資産計上するのか」という点について書きたいと思います。

具体的には、以下の会計基準に詳しく記載されていますのでその内容に沿って解説したいと思います。

研究開発費等に係る会計基準
研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針

市場販売目的に係るソフトウェアの会計処理

販売目的のソフトウェアに関しては、資産計上についていくつかのステップを踏んで処理方法を検討します。

ステップ① ソフトウェアの制作が研究開発費にあたるか否かの検討

ソフトウェアの制作が研究開発費にあたるかどうかを検討し、研究開発費となる場合は費用として処理し、あたらない場合は資産計上のステップに進み検討します。

研究開発費については実務指針に例示が記載されています。

① 従来にはない製品、サービスに関する発想を導き出すための調査・探究
② 新しい知識の調査・探究の結果を受け、製品化、業務化等を行うための活動
③ 従来の製品に比較して著しい違いを作り出す製造方法の具体化
④ 従来と異なる原材料の使用方法又は部品の製造方法の具体化
⑤ 既存の製品、部品に係る従来と異なる使用方法の具体化
⑥ 工具、治具、金型等について、従来と異なる使用方法の具体化
⑦ 新製品の試作品の設計・製作及び実験
⑧ 商業生産化するために行うパイロットプラントの設計、建設等の計画
⑨ 取得した特許を基にして販売可能な製品を製造するための技術的活動

ステップ② 研究開発の終了時点を明確にする

実務指針上「最初に製品化された製品マスター」の完成時点が研究開発の終了時点とされています。

したがって、そこまでの制作活動について発生した費用については研究開発費として費用処理することとなります。

「最初に製品化された製品マスター」の完成時点とは、言い換えるとプロトタイプの完成時点又は販売する上での重要な機能が実装されておりかつ重要な不具合が解消された時点となります。

一般的には、

プロトタイプ→アルファ版→ベータ版→正式版リリース

といった順序で流れることを想定すると、アルファ版の制作に入った段階以降は資産計上の対象となるとイメージできます。

ただし、一概にそうとも言い切れない場合もありますので状況に合わせて会計基準と照らし合わせながら判断することが求められます。

ステップ③ 制作原価に関する会計処理

制作原価については、適正な原価計算によって算定し、仕掛り中のものはソフトウェア仮勘定とし、完成品はソフトウェアとして無形固定資産に計上します。

つまり、ソフトウェアの制作活動にかかった費用の原価計算を行えるよう、事前に工数管理等の業務フローの構築が必要となります。

ステップ④ 完成後の制作費に係る処理を検討する

機能の改良・強化を行う制作活動のためにかかった費用

・・・原則として資産に計上

著しい改良と認められる場合

・・・著しい改良が終了するまではステップ②の研究開発の終了時点に達していないということになり、かかった費用は研究開発費として処理

機能の改良・強化に関する作業か否かという判断が必要になり、逆に機能維持に要した費用は資産として計上してはならないとされています。

機能の改良・強化について著しいものについては、新たなソフトウェアの開発として捉え、再びステップ①から順を追うことになります。

自社利用のソフトウェアに係る会計処理

自社利用のソフトウェアとは、次の2つのパターンのことを指し、それぞれ会計処理方法が決まっています。

【ソフトウェアを利用して外部へ役務提供行う場合】
※事務処理業務を受託するサービスを提供するにあたって、当該事務処理を行うためのソフトウェアを利用する場合(たとえば給与計算事務の代行を行うための給与計算ソフトなど)

その役務提供により将来の収益獲得が確実であると認められる場合には、適正な原価を集計した上で、当該ソフトウェアの制作費を資産として計上しなければなりません。

【社内で利用するソフトウェアの場合】
※社内の業務について管理するソフトウェアを導入するような場合(販売管理システムなど)

完成品を外部から購入した場合のように、ソフトウェアの利用によって将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる場合には、当該ソフトウェアの取得に要した費用を資産として計上しなければなりません。

将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる場合無形固定資産に計上し、確実であると認められない場合又は確実であるかどうか不明な場合には、費用処理することとなりますので、将来の収益獲得又は費用削減が確実であることが認められるという要件が満たされているか否かを判断する必要があります。

自社利用のソフトウェアについて、資産の計上を開始するタイミングは「将来の収益獲得又は費用削減が確実と認められる状況になったタイミング」であり、それを証明する証憑に基づき決定します。

たとえば以下のような証憑に基づくことになります。

・ソフトウェアの制作予算が承認された稟議書
・ソフトウェアの制作原価を集計するための制作番号やプロジェクト番号を記入した管理台帳
など

自社利用のソフトウェアについて、資産の計上が終了するタイミングは「実質的にソフトウェアの制作作業が完了したと認められる状況になったタイミング」であり、それを証明する証憑に基づき決定します。

たとえば以下のような証憑に基づくことになります。

・ソフトウェア作業完了報告書
・最終テスト報告書
など

受注制作のソフトウェアに係る会計処理

受注制作のソフトウェアに関する制作費については、請負工事の会計処理に準じて処理しますので、ここでは割愛します。

あとがき(SaaSシステムは??)

さて、近年ではSaaS系サービスが非常に多く、これについては「市場販売目的」とするのか「自社利用」とするのか判断に迷う部分があります。

実際会計基準上ではその辺りが明確ではなく、様々な要素を勘案した上で会計基準を適用する必要が出てきます。

個人的な見解ですが、例えば会計ソフトのように従来パッケージ型のソフトウェアとして提供されていたものがクラウド型となり期間利用料を支払う形になっている場合や、パッケージ型のソフトウェアの販売と同等の便益を得られる(ライセンス型など)ような場合には「市場販売目的」として会計処理を検討することになろうかと考えます。

以上、自社制作のソフトウェアを資産計上する場合の詳しい会計処理方法について書きました。

ソフトウェアの開発が伴ったサービスは多いと思いますので、このような論点は避けて通れない部分になるかと思います。

将来の収益獲得が見込めないにもかかわらず資産計上してしまうことがないよう、慎重に検討できる業務フローを構築しておく必要があると思います。